昔々。
でももしかするとつい最近のお話。



+++蛇太郎+++


昔々、あるところ…つまる所「北岡修一法律事務所」に、北岡修一と由良吾郎が仲睦まじく暮らしていました。
ある日、北岡がいつものように仕事から帰ってきました。
「ただいまー吾郎ちゃん。…あー重かった。」
「おかえ……」
帰ってきた北岡を見た吾郎は絶句しました。
北岡は金髪の男を引きずってきたのです。
「あ、コレ?」
北岡は男の襟を引っ張り上げました。
「拾ってきちゃった。」
男は気を失っているのか、ぐったりと北岡の成すがままになっていました。
「先生……」
吾郎はがっくりと肩を落としました。

北岡が拾ってきた男は、二人をじっと睨み付けていました。
「アンタ、名前は?」
「…フン。」
男はさっきからこの調子です。
「何…アンタ、名前ないの?」
「知るか…」
「じゃ、名前付けちゃおうか?」
北岡と吾郎は顔を見合わせてニヤリと笑いました。
「…ゴンザレス。」
「は?」
男はじろりと二人を見ました。
「お前の名前はゴンザレスだ!!通常ゴン!!!」
ゴンザレス(仮名)は北岡の胸倉を掴み上げました。北岡は苦しそうに身悶えています。
「ごめんごめんごめん!!冗談だってば!!!」
北岡は咳き込みながらゴンザレス(仮名)の手を払い除けました。
「じゃあ、…田吾作?」
「…」
「クリスティーヌ?」
「…」
「リンリンランラン?」
「…」
「ジュゲムジュゲム?」
「お前…真剣に考えてないだろう…?」
「あ、バレた?」
ゴンザレス(仮名)はまた北岡の胸倉を掴みました。
「本っ当―――――にごめん!!離して!!!」
北岡を放すと、ゴンザレス(仮名)は二人に背を向けました。
「…威。」
「え?」
「浅倉、威だ。」
咳き込む北岡とその背中を介抱する吾郎は、お互いにきょとんとして目を見合わせました。
「浅倉威、か…」
「浅倉威、ですね…」
二人は微笑み合うと、浅倉に手を差し出しました。
「よろしく、ゴンザレス☆」
「違うって言ってるだろうが!!!!!」

浅倉が来てからというもの、北岡の生活は一転しました。
浅倉は変わった人間で、突然暴れだしたり、物陰でニヤリと笑ったり、焼きトカゲを差し出したりしました。
その度に北岡はボロボロになりながら吾郎に助けを呼んだり、何とも言えない恐怖感に悩まされたり、嫌々ながらもトカゲを食べたりしました
そんなある日の事です。
「もしかすると、イライラが治まるかもしれない…」
浅倉は突然こう呟くと立ち上がりました。
「どうした?浅倉。」
「お前は、これに見覚えがあるか?」
浅倉が北岡と吾郎に差し出したのは、灰色のカードデッキでした。
「…お前……」
何かを言おうとする吾郎を制し、北岡もスラックスのポケットからカードデッキを出しました。浅倉のそれと違うのは、北岡のデッキには牛型の紋章が付いていた事。
「早く『契約』を済ませる事。分かるね?」
「ああ、分かってる…」
それだけを言い残して、浅倉はデッキを手に出て行きました。

しばらくして、浅倉が帰ってきました。そのデッキは紫色に変わり、蛇形の紋章が付いていました。
「浅倉、蛇型モンスターと契約したの?」
「いや、違う。」
疑問に首を傾ける北岡に、浅倉はカードを見せました。そのカードにはそれぞれ蛇、サイ、そしてエイの絵が描かれていました。
「三匹もねぇ…流石だわ。」
感心する北岡に、吾郎が質問を投げ掛けました。
「先生、どうやって『契約』するんです?」
「ああコレ?」
北岡は自分のデッキを手で弄びながら、話を続けます。
「自分が契約したいモンスターにね、『封印』のカードを差し出すのよ。それだけ。」
以外に呆気ない答えに、吾郎は「そうなんですか…」と呟きました。それに対し、北岡がまた話し出します。
「でもさ、俺が契約しようとした時にね、鳳凰型のモンスターがいて、『あ、これ俺にぴったりじゃん☆』と思ってカード出したら神崎が物凄いスピードで突進してきて、『コレは駄目だ!!』って契約させてくれなかったのよ。何でだろうねぇ。ま、マグナギガ強いし?俺だってね。」
北岡は不敵な笑みを浮かべました。それから「そういえば」と浅倉に振りました。
「どうしてアンタは三匹も『契約』できたのよ?そんなに『封印』のカードなかったでしょ?」
「これか?」
浅倉は三枚のカードを振りながらニヤリと笑いました。
「神崎に頼んだんだよ……悪いか?」
「頼んだ」の言葉の裏に隠された行為を容易に思いつき、二人はただ苦笑いをするだけでした。
その様子を見ていた浅倉は、不意にこんな言葉を呟きました。
「『鬼退治』にでも、行くか……」



―――



浅倉は、いなくなりました。
彼はあの時の言葉の通りに、出て行ってしまったのでした。
浅倉が去った後、北岡と吾郎にはいつもの平和が戻りました。しかし、何だか二人の心にはぽっかりと穴が開いたようでした。
「今頃、浅倉は何をしているんでしょうね…」
「知らないよ…」
二人は平和で、何もない生活を送りました。何もない、至って平和な……

「ガンッ、ガンッ……」
突然、玄関のドアがノックされる音が部屋中に響きました。北岡と吾郎ははっとして、玄関の方を見ました。
「吾郎ちゃん……?」
「ちょっと、見てきます。」
吾郎は用心しながら、玄関へ向かいました。
その次の瞬間。
「ご…ゴンザレス?」
「違うだろ…」
聞き慣れた低い声が、北岡の耳に入りました。
「お前…まさか……!」
北岡は小走りで玄関へ走っていきました。
「あ…浅倉……」
「フン」
そこにはゴンザ…いえ、浅倉が、少し照れくさそうに立っていました。
「鬼退治に行ってたんじゃ…」
「コレだ。」
浅倉が後ろから軽々と引きずり出したのは、紛れもなく神崎士郎でした。
「成程…ね。城戸達が喜ぶわコレ。」
神崎は気を失っている様で、浅倉が中に引き摺って行っても、成すがままでした。三人は、地面に仰向けに寝かされた神崎を覗き込みました。
「…」
「…」
「…」
「…ねぇ。」
「…先生。」
「やらない?」
「…ええ。」
「…浅倉?」
「ああ。面白そうだ…」
三人は顔を見合わせ、ニヤリと笑いました。そして各々に奥へ消えたと思ったら、しばらくして吾郎が整髪量と髪留めのゴム、北岡が黒の油性マジック、そして浅倉が大量のワサビを持ってきました。
「…いくよ。」
北岡の合図で、三人は動きだしました。

しばらくの間、事務所の中をマジックの音と髪を梳く音だけが響きました。その後何かを塗る音。そして……
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!?」
哀れな神崎の悲鳴が響き渡りました。




意識は上昇を始め。
まるで体が浮く様な感覚。
長い睫毛を押し上げて。
君は目を醒ますんだ。
そのなんと素晴しい事。


「…何だ?今の。」
ベットの上で寝転んだまま、俺はさっき見た夢を思い出していた。
今日は休みの日。やろうと思えばいつまでもこうゴロゴロしていられる。でも余りにも遅いと、吾郎ちゃんが心配して来るだろうなぁ。
「あーあ。何なんださっきの…」
俺は大体の夢を思い出し、ふぅと溜息をついた。
「桃太郎のパロディ?…宛ら『蛇太郎』か?」
本当に変な夢、と俺は少しの自己嫌悪を追い払うかの様に、寝返りをうった。
すると、肩に当たった何か暖かいもの。
「…?」
おかしい。
俺はすぐさま起き上がって、同じベッドにいるその正体を確かめた。
それが目に入った瞬間、俺は絶句した。「絶句」という言葉の通りに言葉が出なかったのだ。
「…あ……さくら………?」
そこにいたのは、確かに浅倉だった。しかし俺に気配に気付かないのか、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。俺はもしかしてずっとこいつの添い寝をしていたのか?そう思うと全身が粟立ったかの様に感じられた。脱獄犯、しかも全てを「イライラする」という理由で壊そうとするライダーと添い寝なんて!!
「…ご………吾郎ちゃ―――――んっっ!!!」
「どうしたんスか先生っ!!!」
「あ…浅倉…が……っ」
「何だ…煩いな……」
「『煩い』じゃないよ!何故俺のベッドで一緒に寝てるんだよ!!?」

こうして、また「普通」の一日が始まったのだった。



――――――――――――――――――――
初めてリクエストで書きました…
3600番リク(蓬もち姫様)は「北岡家+蛇 ギャグ 先生中心」。
…最後しか先生中心じゃないじゃん(ぉぃ)
もち姫様…コレで良いですか?(聞くな)

もち姫様、よろしかったら是非受け取って下さいませ☆


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