寝顔
手塚の寝顔ってのは、一般的によく言われる『安らかな寝顔』ってのとはちょっと別の所にあると思う。
もともと手塚は表情が薄い。
まぁ長年付き合ってると、そのなだらかで微妙な変化でも十分に理解できるんだけど・・・。 付き合いの薄い人だと、ちょっと見ただけじゃなに考えてるかなんてカケラも解んないだろう。
基本形は哀しげ。
良いように取れば、憂いを帯びてるってことらしいけど。
要は、美味しいもの食べてても、手塚の食べてる物はみんな不味そうに見えちゃうし、本人は心のそこから楽しんでるはずなのに、傍からみたらつまらなそうに見えてしまう、ってコトだ。
で。
寝顔も例にもれず、もちろんそうなのであって。
一言で言うなら。
「なにか悲しい夢でも見てるのだろうか?」
って感じの寝顔だ。
うなされてるわけでも、苦しそうなわけでもないのに何故だか酷く悲しげ。 それこそ手塚を叩き起こして「大丈夫?」って聞いちゃいたいぐらい。
でも、本人はまったくいたって普通に寝てるつもりらしいから、そんなのいらぬお世話ってモンなんだろうけどさ。
「・・・・・・」
手塚の寝顔なんて俺は飽きるぐらい見てるからさ。 今更、そーんな悲しげな寝顔だって見慣れたよ。
見慣れたさ。
見慣れたけどさぁ。
「可愛い恋人の膝枕で寝てる時ぐらい、もうちょっと嬉しそうにしてもバチは当たらないんじゃない??」
最近眠れないって手塚が言うから、 膝枕してあげたのに。
さっきっから足が痺れてきてるけど、 我慢してるのに。
そーんな悲しい顔じゃ、面白くないでしょ。 嘘でもいいから、もっと嬉しそうに寝てくれ。
まったく こんな恋人不幸者は
「こうしてやれ」
音もなく眠っていた手塚の鼻をふにっとつまんでやる。
「・・・ぅ」
僅かに手塚が身じろぐ。 しかしまるで起きる気配はない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
眉間に刻まれた皺がどんどん深くなる。 だがまだまだ起きる気配はない。
「・・・・・・」
「・・・・ん・・・ぁ」
ついに息苦しくなったのか、手塚の口がぽかっと開いた。
こうなると、もう悲しい顔じゃなくて間抜け面だ。
「ぅはっ」
手塚の鼻はつまんだままで、俺は必死で笑いを堪える。
ああ。 俺の手塚はなんて愛しいんだろう。
どうか。
手塚が俺の夢を見ますようにと願いながら、俺は僅かに開いた手塚の唇に
『おやすみなさい』
のキスを落す。
寝顔 ゆっくり 悲しげ まぬけ 寝息 愛しい 柔らかい 昼寝 無防備
ぜんぶが俺の膝の上にある午後の昼下がり。
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黒太さんから頂いた素敵小説2本目です!!
前回の小説と同じでレイファは窒息死寸前です。
鼻を摘まれた手塚さんもいい感じですし(何)それを見つめる雄一さんもまるで聖母の様で(違)
ほのぼのしているのが伝わってきて、読んでいるこっちまで幸せになりました。
黒太さん、ありがとうございました!!
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