「お前は運命を変えるんだろ!!お前が死んでどうするんだよ!!」 城戸の声が響いている。 「違う…あの時占った…次に消えるライダーは…本当はお前だった…。」 視界が暗くなってくる。 「俺の占いが…やっと…」 何処かであの懐かしいピアノの音が流れていた。 +++ピアノが聴こえる+++ 俺も雄一も家族はいなかった。 雄一の家族は事故によって亡くなっており、 俺も親を早くに無くし、この力のせいで親戚は皆俺を恐れ孤児院へと入れた。 そこで俺達は出会った。 そして今、俺達は一緒に生活している。 雄一も俺もそんなに稼ぎがいいわけではない。 雄一はまだ駆け出しのピアニストだったし、俺の占いという仕事も客が来なければ一日の収入がゼロの時もあった。 しかしそんな中でも俺達は幸せだった。 雄一の働いているバーで雄一はピアノを弾いていた。 俺は流れるその旋律を聞きながら何気なくコインを弾いた。 その時、雄一の背中に黒い影が走る。 俺は眉を顰めた。 「…海之?何か悪い占いでも出たの?」 コインを見つめる俺にいつの間にか雄一が演奏を止めて俺の顔を覗き込んでいた。 「あ…いや…なんでもない…。演奏、続けてくれ…。」 「…そう。」 雄一はまたくるりと背を向けメロディーを奏で始めた。 仕事が終わった後外に出ると白い物が静かに舞っていた。 「うわー!!雪だよ雪!どうりで寒いと思った!」 雄一は寒そうにコートの襟元をきゅっと寄せる。 「傘…買って行った方がいいか…?」 俺の言葉に雄一はうーんと考えて 「いいよ。せっかくの雪なんだし。このまま帰ろう!」 雄一は俺の腕を掴むと雪の降る中を走り出した。 「結構降ってるなぁー。」 「明日には…かなり積もりそうだな…。」 「そしたら、雪だるまでも作ろうかー。」 町はもうクリスマスでたくさんのカップル達が歩いていた。 そんな中を男2人で歩くのは結構異様な光景なのだが俺達は構わず歩いた。 その時、人の叫び声が聞こえた。 それと同時に鉄パイプを持った長身の男が走って来た。 「うらぁぁぁ!!!!!!」 男は叫ぶと鉄パイプを振りかざし俺達へと襲ってきた。 「うあっ!!」 振り下ろされた鉄パイプは雄一の腕に鈍い音を立てて当たり血が飛び散った。 「雄一っ…!!」 サイレンがなると男は舌打ちをして走り去った。 「雄一…雄一っ!!」 降りゆく雪が紅く染まっていった。 静かな部屋にピアノの音が響く。 しかしそれは曲の始めの方ですぐ終わってしまう。 白黒の鍵盤の上にポタリと血が落ちた。 「雄一…もうこれ以上は…!!」 雄一は思うように動かない手をピアノに叩きつけた。 「何で…なんでこんな曲さえ弾けないんだよ…!!」 突然雄一に胸倉を掴まれた。 「あの時分かっていたんだろう!?手が動かなくなる事を!!」 雄一のその言葉に俺は唇を噛んだ。 雄一は俺の胸を何度も叩いた。 「なんでだよ!!何で俺が…!!」 雄一は俺の事を見たあと力無く俺の肩を掴んだ。 「なんか言ってくれよ…!!海之!!」 俺があの時雄一を守ってやれれば…。 あのときの占いをよく調べていれば…。 雄一の腕は…動かなくなる事がなかったのに…!! 俯く雄一に俺は手を強く握り締めた。 「雄一…すまない…。」 「なんでいつもそうやって謝るんだよ…。海之の馬鹿…。」 雄一はピアノの上の無機質な箱を手に取った。 「雄一…それは…!」 雄一が退院したあと、謎の男・神崎士郎が置いていったカードデッキ。 これを使い、他の人間と戦い生き残ればなんでも望みが叶うらしい。 神崎は雄一にデッキを渡したあと鏡に吸い込まれるようにして消えてしまった。 「これを使って…戦えば…手は動くようになるのかな…。」 「雄一!!やめろ!!」 「判ってる…俺は…たとえ手が動くなるようにしても…人を殺したくなんかないっ…!!」 その時耳鳴りにも似た金属音が響き渡った。 それと同時に鏡からチェーンのようなものが伸び雄一の首に巻きついた。 「雄一!!」 俺はとっさに雄一に掴まったが雄一はピアノの中へと吸い込まれていった。 「雄一ー!!!」 部屋は何事もなかったように静まり返り、床には主の居ないデッキが落ちていた。 俺はそれを拾い上げると鏡に翳した。 「こんな戦いには…破滅しか残っていない…!!俺はこの戦いを…運命を変えて見せる!!」 目の前が光に包まれた。 重くなっていく体とは裏腹に浮いているような錯覚に襲われた。 「手塚!!」 城戸の顔が間近にあった。 「俺の占いが…やっと…外れる…。」 眩しい光に目を開けていられず俺はゆっくりと瞼を閉じた。 ピアノが聴こえる。 「雄一…?」 『海之。お疲れ様。』 そっと抱きしめられる。 『会いたかったよ…。また一緒に居られるね…。』 「雄一…。」 城戸には悲しい思いをさせてしまったけど。 秋山には苦労をかけたけど。 それでも 運命を変えられたのだから。 だからしばらく 彼のピアノを聴いていたいんだ。 |