+++幸せ。+++



「あら、お久しぶり。」
ああ、嫌な女に会ってしまった。
俺が、かつて付き合った女。
まあ、俺は一夜限りの仲にしようと思ったんだけど。
女は全身をブランドで埋め尽くしていた。
要はちゃらちゃらした女。
女は真っ赤なールージュがついた唇で微笑んで見せた。
「相変わらずね。」
それってどういう意味よ?
仕方がなく俺はへらっと笑ってやった。
本音は早く此処から出たいだけなんだけどね。
「ねえ、それからどう?」
この女が聞きたい事は何となく分かった。
俺はブランドのオーダースーツに身を包み、
ジャガーに乗り込もうとした時に声をかけられたのだ。
ああ、だから嫌なんだよね、こういう女。
「別にー?何もないけどー?」
俺はそのまま車に乗り込もうとした。
しかし女はそのまま俺の腕を掴んだ。
「ちょっとお茶くらい良いじゃない。ね?」
だから嫌だってのに。
でも放してくれそうにもないね、その腕。
真っ赤なマニュキアがついた爪が、俺の皮膚を突き破りそう。
予定が少し狂いそうだが、しょうがない。
まずは、開放だ。
俺は、静かに頷いてやった。

「アナタ、それから私以外に女はできたのかしら?」
熱を持った目で俺を見つめてくる。
嗚呼、虫唾が走る。
彼女は一般的には綺麗な顔をしている方だとは思う。
でもその奥にあるその欲望に、俺は気付いている。
そういうのは俺と一緒なんだけどね。
でも、アンタの欲望は愛せないね。
俺の益になる訳じゃないし。
今度こそは「一夜限り」にしてくれそうにもないし。
「ねぇ、もう一度、私とやり直さない?」
猫なで声の声には、もう飽き飽きだ。
女は俺の顔をじっと見ながら、真っ赤な唇を舐め回した。
色気は感じるよ、でも、俺はそんなの好きじゃない。
「ねぇ、良いでしょう?」
もう帰りたいや。
吐き気がしてきた。
俺は閉じっぱなしの口を開いた。

「あのさ、俺、もう先客がいるのよ。」
「先客?誰かしら?私よりも良いヒト?」
「勿論。」
「どんな方なのかしらね?」
「そうだねぇ…
 茶のクセ毛に垂れ気味の目。
 身長はモデルみたいに高くってさ。
 足もすらっとしててね。
 俺に相応しいヒト。」
「私より、アナタに相応しいの…。」
「そう。
 俺の側にいても華があるって言うかね。」
「ご職業は?」
「秘書。俺のね。
 すっごくイイのよ。
 綺麗だし、料理もできるし、気配りも利くし。
 まさに才色兼備、だね。」
「そう……」
「ま、アンタよりは全然マシだよ。
 ハイエナみたいな女よりは、ね。」

『バシャン。』
あーあ、やっちゃった。
俺のスーツはコップに入っていた水でびしょびしょに濡れてしまった。
勿論あの女の手にはガラスのコップ。
どうしてくれるのよ、一応ブランド物よ?
「失礼するわ。」
かなりご立腹のようだね、この女。
誘ってきたのはアンタからだってのに。
「酷すぎる。
 アンタとなんか別れて正解の様ね。」
それはこっちの台詞。
「さぞかし秘書も迷惑しているでしょうね。」

「そんなことないさ。
 ずっと俺の側に居てくれるんだ。」

女の顔は怒りで真っ赤だ。
「サヨナラ。
 貴方の顔なんか二度と見たくない。」
女はそのまま足音を立てて店から出て行った。
下品だなぁ。
しかも、俺がアンタの分まで払わなきゃいけないのかよ。
でもまぁ、かけてきたのがコーヒーじゃなかった事が幸いかな。
店のお姉さんが布巾を持ってきてくれたので、有難く受け取って拭く。
あーあ、怒られちゃうかな。
そのまま、会計へと向かった。


「おかえりなさい……先生、どうしたんです。」
吃驚した顔で俺を見つめる「秘書」。
車の中で乾くかと思っていたけど、やっぱり染みみたいになってしまった。
「先生。」
大丈夫だって。
俺が振り払うと、少し暗い顔で俺に付いてくる秘書。
こういう昔の妻って感じが最高。
俺はいつものソファーに座って、秘書の顔をじっと見た。
端正な顔、少し癖のある髪、すらっとした身体。

「吾郎ちゃん。
 俺、今幸せかも。」

にっこり笑って見せた。
あの女に勝った気分がした。



†―――――――――――――――――――――――――――†
先生過去の女がたっぷりいそうです。
きっと先生の財力目当てなのも沢山いそうですよね。
しかし、先生にはもう……!!!(何)

オネエ言葉、未だに把握していません(泣笑)



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