ある日俺は 猫を拾った。 +++捨て猫+++ 猫は何かに怯える様に震えていた。 いや、寒さで震えていたのかもしれない。 残念ながらそれははっきりとは覚えていないのだ。 何故ならそんな事以上に頭に焼きついたものがあったから。 それは、あの目。 暗闇の中で光らせ、まるで何かを探すかの様だった。 不意に俺を見つけた猫は、無表情な目に感情の光を灯した。 それは憎悪であり、怯えであり。 その瞳を、俺は覚えている。 猫は一日中部屋の中にいた。 布団の中に包まり、いつも何処か遠くを見ていた。 君は何を探しているの? 問いかけても返事は返ってこない。 猫は何も喋らず、しきりに何かを考え込んでいた。 暫く経ったある日、俺が帰ってくると家中のガラスが覆われて見えないようになっていた。 部屋に明かりは灯っていなくて、姿身などは粉々に砕かれていて。 俺は部屋を見回して猫を探した。 俺の姿を捉えた猫はすぐに布団の中に姿を隠した。 そして小さい声で「ごめん。」と呟いた。 猫が喋った初めての言葉。 俺は猫の頭を、なるべく驚かさない様に、そっと撫でた。 初めは驚いてびくびくしていたけれど、やがて猫は安心したかの様に体を預けてきた。 猫を飼って、大分月日が経った。 猫も完全ではないが、少しずつ俺に慣れてきた様で、 言葉を返す様にもなったし、姿も見せる様にもなった。 でも猫は滅多に表情を表に出さず、俺が微笑みかけても反応を示さなかった。 ある日俺は聞いてみた。 「アンタさ、一体何を求めているの?」 猫は怪訝そうな顔をした。 「だっていつも何か探しているみたいだし。」 猫は俯いて答えた。 「…先生。」 「え?」 「先生がいたら…きっと答えをくれると思って。」 ああ、きっと前の飼い主だろうか。 「先生は、僕が消しちゃったから。」 猫は無表情で話す。 まるで他人事かの様に。 「答え、まだ見つからないの?」 猫は静かに頷いた。 重くなった空気に耐えかねなく、ココアを入れてこようか、と俺は立ち上がった。 その背中を猫がずっと見つめていた事を、俺は知らない。 それから更に数日後の朝。 出掛けようと起き上がった俺の服の裾を、猫が引っ張った。 それに気付いて振り向くと、布団から上半身を起こして猫がじっとこっちを見ていた。 「僕、答えやっと見つけた。」 突拍子もない言葉に、俺は目を丸くした。 「答えやっと見つけたから。」 やっと意味が分かった時、俺は微笑んで猫の頭をくしゃっと撫でた。 「良かったね。」 猫の表情はいつものまま。 でもどことなく頬を赤らませていた。 俺はそのまま支度を済まし、「いってくるから」の言葉を残して部屋を出た。 「僕、もう行かなきゃいけない。」 ドアが閉まる瞬間、そんな言葉が聞こえた気がした。 猫の言葉の本当の意味が分かった瞬間。 既に俺は猫の所に帰れなくなっていた。 薄暗い部屋には、誰の姿もなかった。 ――――――――――――――――――――――――― 初めての佐野さん話。 実はこれ書いたのは学校の授業中で(ぉぃ) 「果たして人間は50分の間に一本小説が書けるのか?」という 無謀な挑戦に出た結果がこれです。 …嗚呼もう(何) 佐野&サト大好きです。 あの猫っぽいのが。 戻る。 |
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