+++夕日と星空+++
 
ビルの間を、夕日が滑っていく。
私は歩道橋の上で、朱く染まったそれを見ていた。
照らされた高層ビル群は濡れたように朱や橙、紅を映し、その眩しさに思わず顔をしかめる。
下にはとめどなく溢れる車、車、車。
しかしそれは、私の中には入ってこない。
見えるものは、ビル群と夕日だけ。
その落ちゆく夕日に向かって、私は声に出さず言った。
「さよなら。」
さよなら、でもこれだけで全ての思いが此処から去ってはくれない事、分かっている。
でもできるなら、夕日と共に全て闇に沈んでしまえばいい、と思った。
 
空を仰ぐと、くすんだ空気や眩し過ぎる街灯に圧されて僅かに瞬く星達。
大勢の人達がひしめき合う中で、俺は一人夜空を見上げていた。
闇の中に、見慣れた背中が重なる。
あれで、良かったのだろうか。
俺があの部屋から出る、それはお互いの思いを伝え合った末の結果だった。
でも、これで本当に、俺は自分に偽りないと言える?
何故敢えてすれ違う道を選んでしまったのだろうか。
これで過ぎたあの時が帰るとは思っていない。けど。
 
夕日は段々とその姿をビルの谷間に滑らせていく。
私はその夕日を遮るように手を伸ばす。
日は手の平にすっぽりと隠れてしまったが、その間から朱い光を惜しみなく放っている。
この手から零れた光を、私は受け止める事ができない。
私はこうやって、あの人の溢れた思いを全て受け止める事ができなかった。
 
肩に人が当たりそうになるのを忌々しく避けながら、暮れた空を見上げる。
茜色はすっかり西へと消え失せ、星が次々と己の存在を示し始めている。
その星に向かって、手を伸ばす。
一つ一つは小さいのに、この手には入らない程広く散らばる星。
全てを、俺は受け止める事ができない。
俺はこうやって、奴の散らばった思いの一つ一つを受け止める事ができなかった。
 
あの人の前では流れなかった、涙が頬を伝う。
風もなく静かなこの空間で、そのまま涙は足元に落ちた。
此処だけが孤島になったかのように、人影の全くない歩道橋の上で。
次から次へと流れる涙を、私は止める事ができなかった。
誰の影もない歩道橋の上で、思わずしゃがみ込んで鳴咽を漏らす。
あの夕日にこの思いは乗せられない。
今なら言える。
…会いたい。
 
闇に浮かんだあの日のビジョン。
何かを伝えようと開く口に、怯えて耳を塞ぐ見慣れた姿。
さよなら、と声無く口がそう告げると、諦めたようにその手を降ろす。
あの時の哀しそうな瞳。
気が付いたら、俺は走り出していた。
あの星に、この思いは乗せられない。
今なら言える。
…会いたい。
 
人通りが激しい街中を、歩く。
人通りが激しい街中を、歩く。
ふと目に入った、金の髪。
ふと目に入った、いつものスーツ姿。
二人の間を止めどなく人が流れる。
二人の間を止めどなく人が流れる。けど。
会いたかった。
会いたかった。
私は微笑む。
俺は笑う。
 
「やっと、会えた。」
 
 
この元ネタはポルノグラフィティの「夕陽と星空と僕」からです。
「愛が呼ぶほうへ」の中にあります。
良い曲ですよー。

浅倉・須藤の組み合わせが今好きです。
なんだか大人って感じで。
…浅倉、大人?;;
全てはへびかにのせいです(ヲイ)
 
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